この記事は、宮崎ほくと(JRA中央競馬会騎手・脳神経科学トレーナー)が、堀美智子さんをインタビュアーに迎えてお届けした対談を、読みやすく再構成したものです。テーマは「脳神経科学と健康・美容」。
筋肉と脳の関係、疲れやすさの正体、痛みの根本、美容への応用、そして落馬事故からの復活まで——体と脳のつながりをやさしく語っています。
脳の一番大事な仕事は「体を動かすこと」
堀さん
こんにちは、堀美智子です。今月はJRA中央競馬会騎手で脳神経科学トレーナーの宮崎ほくとさんをゲストに迎えて、脳神経科学と健康美容をテーマにお送りします。宮崎さんは2007年に騎手デビューされました。
宮崎
騎手をメインに活動しています。「脳神経科学トレーナー」というのは僕が自分で言っているだけで、YouTubeでは「カラダマニアの騎手」と名乗っています。マニアって本職より詳しかったりしますよね。発信していたら「セッションを受けたい」という方が出てきたんです。
宮崎
脳って「考えるのが主な仕事」と思われがちですが、進化的に見ると脳の一番大事な仕事は体を動かすことなんです。たとえば「ホヤ」は最初は泳ぎ回れるのに、定住地を見つけると自分の脳を消化して植物のように生きる。つまり脳は体を動かして危険から逃れるために存在しているとわかるんです。
筋肉と脳は密接につながっている
堀さん
YouTubeで脳神経科学の知識を生かしたトレーニング動画を配信されていますが、これは学んでこられたものですか?
宮崎
アメリカで学んだ知識に自身の経験を踏まえて伝えています。筋肉は関節を動かすもので、関節がどんな状態かを脳に伝えているんです。動きの悪い関節はその情報を適切に送れず、脳は「何が起きているか分からない場所」に最大限の力を出させないようにする。だから力が入りにくくなるんです。
堀さん
私は逆だと思っていました。筋肉が凝って伸びないから関節が動かないのだと。
宮崎
一般にはそう思われますが、筋肉は脳の指令で伸び縮みするだけ。ストレッチも「今伸びていますよ」という情報が神経に届くだけで、物理的に伸びた状態が定着することはあり得ないんです。まずは関節と可動域を脳に知らせてあげることが大切です。
疲れやすさを解決する — カギは「島皮質」
宮崎
疲れやすさの多くは、体から感じる感覚が正しくなく、それを解釈する脳の部分が正しく働いていないことが考えられます。特に関わるのが「島皮質」。ここは自律神経の調整や、体内の化学変化を感じるのに大きな役割を果たしています。
宮崎
島皮質を働かせるには「栄養」か「刺激」。栄養は難しいので刺激で考えると、脳は使うか失うかで、使われない神経細胞は退化します。だから刺激して働かせてあげる必要があるんです。
息を止めると神経細胞の刺激になる
堀さん
息を止めると神経細胞が動くんですか?
宮崎
一般には推奨されないことですが、息を止めてスクワットをすると苦しいですよね。「今、血中酸素量が低下している」という感覚が島皮質に刺激を与えるんです。神経の刺激は情報というよりただの刺激で、活性化させることで血流量が増え、神経機能の代謝が良くなり、自律神経の調整につながります。
⚠️ 息を止める運動は無理をせず、立ちくらみや気分が悪くなったらすぐに中止してください。
国内で数人しかいない「Z-Health認定トレーナー」
宮崎
Z-Healthはアメリカの教育機関で、神経科学がベースになったトレーニングやリハビリを教えてくれるところです。カリキュラムは13コースほどあり、都度アメリカへ行って1日8時間×4日間の講義を受けます。元になっているのは機能神経科学で、ドクターキャリックが始めたものです。
宮崎
世界的にも来ていて、ワールドカップで優勝したトニ・クロース選手が長年の膝の痛みを抱えていたとき、Z-Healthのトレーナーに三半規管や前庭器官のトレーニングを処方されたら即座に痛みが取れたそうです。
堀さん
三半規管って耳ですよね。耳と膝ですか。
宮崎
不思議ですよね。でも神経科学で考えるとつながっていくところなんです。
痛みは「脳が作るシグナル」
宮崎
痛みは体を守るために脳が作るシグナルに過ぎません。潜在的に脳が感じている危険度合いによって作り出され、神経の信号だけでなく精神状態や生理学的状態も関わります。
宮崎
だから潜在的な危険要素を1つでも取り除くと痛みが消えることがあります。たとえば「脳のマッピング」。私たちは脳の中に自分の体の地図を持っていて、その地図が不鮮明だと体を正確に動かせない。これは潜在的に危険な状態です。関節を動かして求心性の情報を脳に増やしてあげると、痛みが取れたりします。
宮崎
ほかにも脳幹が「この痛みは大丈夫」と抑制系を働かせて痛みを感じなくしてくれることもあります。動かない機能を見つけて刺激し、機能を取り戻すと、背中の硬さが取れることもあるんです。
堀さん
鎮痛剤を飲むだけでなく、痛みを身体全体で根本的に考えることが必要ですね。リハビリは体を動かして脳に刺激を与え、精神面や痛みを軽減する効果を期待しているんですね。
神経を刺激することは「美容」にも影響する
堀さん
スキンケアでは温感・冷感刺激や触覚、撫でる刺激がありますね。
宮崎
肌のストレッチもそうです。感覚を刺激してあげることが重要で、脳だけでなく局所的な反応も含めて新陳代謝が活発になります。高級美容液を否定はしませんが、僕の場合は刺激との差はそこまで感じませんでした。
美容整体との違い — まぶた(眼瞼下垂)と動眼神経
宮崎
美容整体は顔の骨を動かしたりズレを直したりします。一方、眼瞼下垂でまぶたを上げる筋肉(上眼瞼挙筋・ミュラー筋)は動眼神経の支配。動眼神経は中脳にあり、目の開き方を調整しています。
宮崎
だから眼球運動をしたり、光を目に当てて明暗をつくると良いんです。中脳の「カハール間質核」は上下方向の目の動きを司るので、上下に眼球を動かす運動で、まぶたが落ちる症状の改善が期待できます。右目・左目それぞれ片方だけ行うこともできます。
顔のバランスを整える「顔面神経」
宮崎
顔のバランスに関わるのは顔面神経。顔の筋肉を司るので、笑ったとき片側だけ口角が上がるといった顔のシンメトリーに影響します。また三叉神経はあごの筋肉を支配し、エラ張りやあごのズレに関わります。
宮崎
あごの動きは頭蓋骨の細い骨の動きに影響するので、まずあごの動きを取り戻すと顔のバランスがよくなってきます。詳しくは「顔のバランス」で検索すると動画が出てきます。
騎手という仕事、そして落馬からの復活
宮崎
たまたま友達の知り合いの馬に乗せてもらって「楽しい」とハマって、体が小さかったこともあり騎手を目指しました。学び始めたきっかけは自分の体の問題を解決したかったから。デビュー前から10年ほど慢性の腰痛に悩んでいました。
宮崎
元々運動神経が良くなく、体育の成績も2〜3ほど。プロの世界で戦う中で試行錯誤していました。一番のきっかけは落馬。診断は脳挫傷と胸椎骨折で、後頭葉(視覚野)が脳内出血していました。退院後は見える景色や色彩が変わってしまったんです。復帰しても上手く乗れず、腰の痛みも増していきました。
宮崎
でも学びを深めて自分の機能をチェックしたら、三半規管や目の問題など機能的な原因が分かって、改善していったら自分のやりたいことを素直に体に伝えられる感覚を得られるようになったんです。
脳を鍛えれば、年齢に関わらず動ける
堀さん
脳と一緒に鍛えることで、いくつになっても楽に動かせるんですね。
宮崎
本当にそう思います。脳はいつになっても変化し続けているので、年を取ったら退化する一方ということはありません。神経には可塑性と新規性の原則があって、新しい刺激に対して自分を変化させる性質があります。
宮崎
年を取ると大体のことは経験済みになり変化しづらくなりますが、関節の可動域をいろんな方向で動かして刺激が足りない部分を増やすと、対応した脳の働きが活性化します。脳の中で隣り合う部分は同じ神経から発生しているので、一つの動きが思わぬ改善につながるんです。
今後の展望
宮崎
プロが本当に欲しがる知識を、一般の方にもプロにもお伝えして利益を共有してもらいたい。今オンラインで学校を作っているので、地道にいろいろな活動をしていければと思っています。
堀さん
運動が苦手だったのを克服し、落馬事故から復活するために英語を学び海外へ——その努力はどこから来るんですか。
宮崎
「お前はもうダメだ」と言われると抗いたくなる習性があるみたいで(笑)。人の役に立てているのが幸いですね。
堀さん
この人生100年時代に、多くの人を救う学びですね。痛みに苦しむ方は、ぜひ一度宮崎さんのセッションを受けてみてはいかがでしょうか。
まとめ
- 脳の一番の仕事は体を動かすこと、筋肉は脳の指令で動く
- 疲れやすさは島皮質の働き、刺激で改善できる
- 痛みは脳が作るシグナル、危険要素を取り除くと消えることがある
- 美容も動眼神経・顔面神経・三叉神経など神経から考えられる
- 脳は何歳でも変化する——新しい刺激で活性化できる
