腕をどれだけ速く振っても、思うようにタイムが縮まらない。フォームを直しても走りが安定しない——足が速くなるための答えは、脚そのものよりも「腕の引き方」と「体の軸」にあることがあります。
こんにちは、宮崎ほくとです。神経科学に基づいたトレーニングの資格を持つトレーナーとして、体を根本から変える方法をお伝えしています。
結論からお伝えすると、腕の振りが弱いのは腕の筋力の問題ではなく、「後ろに引くときの肩のポジション」と「中心軸の安定」の問題であることが多いです。今回は現役の短距離ランナーに実際にトレーニングを受けてもらい、その場で腕の振りが変わる過程をお見せします。
今回のゲストは筑波大学の短距離ランナー
今回のカラダマニアちゃんねるはランナーの方をお招きして、どうやったら走るのが速くなるのかというのを一緒にやっていきたいと思います。酒井さん、今日はよろしくお願いします。
酒井さん(以下「酒」)「よろしくお願いします。」
酒井さんは筑波大学で陸上をやられているんですよね。短距離ランナーということで、その中で腕の振り、これがよくなってくれば走りが改善されるんじゃないかということでご相談いただいたんですけれども、そこに関してどうやって改善していけばいいかというのをお見せしていこうと思います。
現状のチェック — 腕の振りとバランス
まず最初に、今の状態をチェックしていきたいので、腕の振りを見せていただいてもいいですか?

その時にバランスを見たいので、足を閉じてもらって、この状態で普段の腕の振りをやってみてください。はい、ありがとうございます。
さすがランナーでやっているだけあって力強い腕の振りをしているんですけれども、今見た中で僕がちょっと思ったのは……酒井さんが自分でおっしゃっていたのは「前鋸筋の働きが足りないから振りのスピードが足りない」ということを最初に言われていたんですね。
ですけれども、僕が見てみて思ったのは後ろへの引き方。引いているときにちゃんと背中側の筋肉が働いていないな、そして引いているときの腕のポジションが理想的ではないなということを思ったので、そこを少し改善していきたいと思います。
軸に負荷をかけてテストする
それとプラス、振っているときにもう少し軸の安定があると、走っているときでもブレずにまっすぐ進めるのかなと思ったので、もう少しそこにも負荷をかけてテストしてみたいと思います。
今度は片方の足を前に出してもらって、出した足のかかとと後ろの足のつま先をつける状態。この状態でもう一度、同じようにできるだけ速く腕を振ってみてください。

⚠️ かかととつま先を一直線につける立ち方は非常に不安定です。壁や手すりの近くで、周りに物を置かずに行ってください。ふらついたらすぐに足を開いて立て直しましょう。
まっすぐのままですね。そうすると、腕の動きだけで腕の振りをコントロールするのは結構難しいなと思いますね?
酒「はい」
なので今、腕の振りだけではなくて完全に胴体を使って……最終的には動きは連動してこなければいけないんですけれども、胴体の動きが腕の振りについてきすぎちゃっていると思います。
同じようにして反対の足を前にして腕を振っていきます。そうすると、必然的にバランスが難しくなってくるので、腕の振りも遅くなってきますね。
これを神経科学的に考えてみると、小脳虫部の働きが外側にも影響するということで、中心軸がちゃんと保たれていないと、周りにどれだけ力を発揮するかということに影響してくるということです。
前鋸筋の働きが、もしかしたら悪いのかもしれないけれども、それだけではなく、中心軸の働きが前鋸筋の働きにも影響しているかもしれないという風に思うので、その辺を考えて改善してみたいと思います。
① 肩甲上腕関節のトレーニング
今日、酒井さんにやってもらいたいドリルはいくつかあるんですけれども、まず最初に腕の動きを改善してみたいと思います。
腕の動きは基本的には色々教わってきていると思うので僕が教えることはないんですけれども、後ろに腕を引いたときにこのポジションで腕を使えているか。ここのときの肩甲上腕関節、これを改善していきたいと思います。
腕を後ろに引いて、少し円を描いていきます。肘は90度くらいにしておいてもらって、後ろに引いてきて回します。


僕の手を上に押しながら、足はぴったりくっつけます。頭の上の手を上に押しながら、腕で円を描いていきます。

できたら、これで足を閉じて一回腕を振ってみてください。振ったらリラックスしてもらって、今、右と左の腕の振り方、感覚としてどうですか?
酒「右はすごい力が入っている」
右は力が入っている、違いありますよね。今見た感じも全然いいなと思ったんです。
② 広背筋の使い方を脳に教える
今度はちょっと面白いドリルがあるので、左側でやってみたいと思います。
今度は今と同じ肩甲上腕関節の伸展の動きを改善していきたいんですけれども、これをしていく中で、最初さっきと同じように円を描いていきます。それからやってもらいたいのは、広背筋ですね。腕を後ろに引く動き、この中で広背筋の働きがすごく大事ですね。
酒「はい」
なので広背筋の使い方を少し改善してみたいのですけど、広背筋の使い方、どんな動きがありますか?

酒「ラットプルダウン?」
そう、ラットプルダウン。普通それですね。でも、これは広背筋を完全に使っている動きではないんです。どういうことかというと、広背筋の動きを全部使うと、このような動きになるんですね。

広背筋を「全部使う」動き
それをちょっとやってみたいと思います。まず最初に腕を内捻りして後ろに引いてきます。

そして内側に寄せてきます。

肘は伸ばしておいて内側に寄せてきて、軽く足を開いて膝を曲げて身体を横に倒して、軽く横にひねって、肩甲骨を下げてくる。この動き、これが広背筋を全部使う動きなんですね。



そして骨盤の後ろあたりと、広背筋というのは上腕骨の前面についてますので、両者を近づけるようにして肩を下げながら……この辺が緊張してくるのを感じますか?
酒「はい」
ぐーっと、もう少し内捻りして後ろに引いて内側に寄せてきます。一回リラックスします。今、体操しているだけなんですけれども、ため息が出ちゃいましたね。
逆の動きでストレッチする
同じようにして、今度はストレッチしていきます。上にあげて肘を伸ばして、さっきとは逆の動きをします。外捻りして反対側に倒す、そして丸めていきます。


そうすると、上腕骨の前面から骨盤の後ろあたり、この部分を伸ばすことになるんですね。出来たら戻します。
⚠️ 肩を大きくねじって伸ばす動きです。痛みが出るところまで引っ張らないでください。肩を痛めている方、脱臼の既往がある方は特に慎重に。
もう一度チェック — 腕の振りと軸はどう変わったか
これでもう一回、腕の振りをやってみます。どうですか?
酒「左も入るようになりました」
左もちょっと入るようになりましたよね。最初よりも全然力強いのがわかると思います。
今こうやって少しトレーニングしてきたところで、もう一回、片方の足を前に出してもらって、出した足のかかとと後ろの足のつま先をつけた状態で、上に伸びる意識を持ちながら腕を振っていきます。いいですね。
最初、左足を前に出した時のほうがバランスもよくなかったんですけれども、今、かなり……大丈夫ですか?かなり息が切れてますけど。

酒「大丈夫です」
走ってないですよ。腕しか動かしてないですよ。
こんな感じで、腕の伸筋群のトレーニングと、腕の後ろ側の動きを改善してあげること。これをやりながら、バランスに負荷をかけて腕を振る。そんなことをやってみたんですが、そうしたら軸の安定が出てきて、腕の振りがすごくスムーズになった。この状態で走ってあげたら、確実に速くなりますよ。
今の状態で、今、外は雨が降ってますけど、走ってほしいぐらいです。
こんな感じで身体のことを多角的にいろいろ考えながらトレーニングしていくと、身体のパフォーマンスというのは上がってきますから、ぜひ皆さんにもこういったトレーニングを取り入れていただきたいなという風に思っています。今日も見てくださって、どうもありがとうございました。
まとめ
- 腕の振りが弱い原因は、腕の筋力より「後ろに引くときの肩のポジション」にあることが多い
- かかととつま先を一直線につけて立ち、腕を振ると、軸の安定の弱さがすぐ出る(⚠️ 転倒注意)
- 小脳虫部=中心軸が安定していないと、手足の力の出し方にまで影響する
- 肘90度で腕を後ろに引いて円を描く=肩甲上腕関節のドリル
- 広背筋は内捻り→後ろに引く→内側に寄せる→体を倒してひねり、肩甲骨を下げるまで動かして初めて全部使える。ラットプルダウンだけでは足りない
- 腕を改善してから軸に負荷をかけて振ると、振りがスムーズになり走りにつながる
